工芸の世界:工芸大国・日本を知るための手がかりガイドブック

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日本の工芸を育んだ歴史

日本の文化の大きな基礎が、日本の自然であることを見ました。何ものもこの自然を離れては存在することが出来ません。しかしもう一つ他に大きな基礎をなしているものがあります。それは一国の固有な歴史であります。歴史とは何なのでしょうか。

それはこの地上における人間の生活の出来事であります。それが積み重って今日の生活を成しているのであります。ですからどんな現在も、過去を背負うているといわねばなりません。吾々は突然にこの地上に現れたのではなく、それは長い時の流れと、多くの人々の力とによって徐々に今日を得たのであります。日本はもう二千余年という齢を重ね、その間に多くの祖先たちの力が合さって、今日の日本を築き上げてくれました。

どんなものも歴史のお蔭を受けぬものはありません。天が与えてくれた自然と、人間が育てた歴史と、この二つの大きな力に支えられて、吾々の生活があるのであります。

古くから東洋の教えは、祖先を尊ぶべきことを説きました。そうして家々には厨子を設け、祖先の霊を祀る風が行われております。これが東洋における一つの道徳となっていることは皆さんも御承知のことと存じます。実際吾々が今日こうやって活きているのは、祖先のお蔭であって、吾々の智慧も経験も生活も思想も、多かれ少かれ、祖先から受け継いでいるのであります。もし自分一人の力で何もかもしなければならないとしたら、どんな人も極めて幼裾な生活より出来ないでありましょう。否、生きてゆく力さえないであり鉢 ましょう。火をどうして得、家をどうして作り、着物をどうして織るか、誰がそんなことをすぐ知り得るでしょう。皆祖先たちの智慧や経験に助けられて、今の生活を得ているのであります。もし歴史が後に控えていなかったら、あの簡単に見える草履一つだって作るのに難儀をするでありましょう。

一枚の紙だとて、どうして作るか、途方にくれるでありましょう。吾々の言葉だとて、なくなってしまうでありましょう。これを想うと、どんなものも歴史的なつながりを有って、存在していることが分ります。吾々の生活はどうしても歴史と縁を切ることが出来ません。

ここで私たちは、歴史を大切にすることがどんなに必要だかが分ります。大切にするというのは、歴史が積み重ねてくれたよい点を更に育てて、歴史を更になおよい歴史に進めてゆくことであります。私たちの為すべき務めは、ただ歴史を繰り返すことではありません。まして歴史に飯いたり歴史を粗末に扱ったりすることではありません。歴史の中で最も特色がありまた優れている面をよく理解して、それを更に進歩させ発展させてゆくことであります。ア)ういう進み方が一番理に適ったものでありましょう。またそれが祖先たちの功績に報いる所以だと思われます。のみならず歴史の上に立つということは、丁度確りした大きな礎の上に家を建てることと同じでありまして、これほど安全なまた至当なことはないでありましょう。

【引用】柳宗悦(著)(1985)「手仕事の日本」岩波書店